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この半年、私の事務所の打ち合わせ室は、消しゴムで埋まっている。
紙を折ってこしらえた115枚の皿が、所狭しと床にならべられ、選りすぐりの消しゴムたちが、分類されている。
膨大な数の消しゴムを、外のスタジオまで運んでいくのも難しいため、窓にほど近い一角に、撮影のためのセットが組まれた。
ファインダーを覗きこみ、カメラマンの永田さんが、小気味良くシャッターを切っていく。
すぐ横で、デザイナーの古平さんがラフ・スケッチを描きあげては、写真の構図を手渡していく。
ポラが回されるたび歓声があがり、弾んだおしゃべりが絶えない。
同時に、編集の大場さんと、私と、私のアシスタントの米ちゃんは、床にすわりこみ、消しゴムの掃除に追われた。
古いコレクションのなかには、長い年月に汚れたり、黒ずんでしまったものが多くある。
パッケージがはがれたり、変色したり、劣化した消しゴムの一部がくっついてしまった例もある。
それらをひとつひとつ丁寧に、きれいにしていくのだ。
消しゴムの汚れを取るのは、やっぱり消しゴムである。
シャープペンシル形の直径5ミリ(いろいろ試して、この太さが一番良いと結論が出た)の消しゴムの先で、少しずつ黒ずみを削り取り、ごく小さく柔らかなハケで、カスを払っていく。
根気のいる作業だ。
あまり深くえぐっては、消しゴムの形自体が変わってしまい、元も子もなくなる。
慎重に、あくまでも表面の汚れだけを除いていかねばならないのだ。
「なんだか、遺跡の発掘調査をやってるみたいですねー」
なんて言いながら、指先に思いを込める。
そのとおり、私たちの消しゴムは、古代の神殿から出土した黄金の冠にも等しい。
上の電球の消しゴムは、最も苦労したもののひとつである。
十数年の間に誇りにまみれ、あまりのかわいさに誰もが手に取って見たがったため、しつこい汚れが重なって、元の色合いを隠してしまっていた。
差し込み口の金具は、本物の豆電球のそれを使ったもので、錆びかかっていた。
そのうえ電球の透明感出すために用いられた材料が、べたべたと溶け出しており、実は私も半分は諦めかけていた消しゴムだったのである。
それを何と米ちゃんが、三時間もくもくと掃除を続け、かつての姿をみごとに取り戻してくれた。
さわやかなパステル・カラーが、踊る。
内にフィラメントの輝きをたたえた電球のつややかさに、感嘆の息が洩れる。
改めて惚れなおした、私の愛しの消しゴムたちである。
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