1990年代の半ばに、取材でポーランドを訪ねた。
その十年ほど前にも、かの地を旅しているが、その時にはまだ共産圏の国で、言葉も通じず、消しゴムを手に入れることは非常に難しかった。
しかし、時は移った。
体制も大きく変化し、旅人が自由に買い物することもできるはず・・・。
仕事を終えた最後の1日に、心おどらせながら、私はワルシャワの町に出た。
ところが。
3軒も、4軒も、文房具店を回ったが、出されるのは外国製の品ばかり。
オレンジ、黄、青のペリカン形の消しゴムは、ご存じドイツのペリカンのもの。
ゾウの絵の書いてあるのは、チェコのコイヌールの品。
「MILAN」と記されたのは、スペイン製である。
日本製品もならんでいた。
「え、ポーランド製の消しゴムがほしい、ですって?
うーん、それは置いてませんねえ。
日本のが、よく消えますよ」
「ポーランドの消しゴム?
いや、ないですねえ」
と、どこへ行っても、つれない反応である。
もしかして、ポーランドでは、消しゴム作ってないの?
まさか。
唯一可能性があるとすれば、赤、ブルー、グリーン、白など、ドロップの色合いの四角い消しゴムだろうか。
しかし、これもポーランド製とはっきりしたわけではない。
時代が変わって、自由化の風が吹きわたり、消しゴムの世界もまっさきに国際交流が進んでいた。
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