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スペインの消しゴムには、大傑作が数多くあり、私はもう、無条件で拍手を送ってしまう。
まずは下の、あかんぼうの消しゴムに注目してもらいたい。
毛先をカールし、大きく口をあけたあかんぼうの丸々とした頭が、消しゴムで作られていて、赤の水玉、あるいは青の花柄の布きれの洋服を身にまとっている。
衿のギャザーと、結ばれたリボンが愛らしい。
ここまでやるとは、恐れ入る。
実際に使ってみて、さらに驚嘆することがあった。
私たちは、泣き叫ぶあかんぼうをむんずとつかまえて、ごしごしと紙の上に押しつけなければならない。
あかんぼうは顔をゆがませ、奇妙な格好にすりへりながら、文字を削りとっていくのだ。
そして最後には、洋服だけが残された人形となってしまう。
こんな恐ろしい、シュールな光景はない。
さすがにゴヤやダリ、ピカソを生んだ国ではないか。
栓抜き、カスタネット(きっとフラメンコに使うものだ!)、なわとびといったものの色も形も、実にセンスよくデザインされている。
長さ10センチ前後という、消しゴムとしては画期的なサイズで試みられ、存在をアピールする。
ネジも六角レンチも、大砲も、意表を突く発想だ。
消しゴム文化のひとつの到達点を見る思いである。
そんな豊かな遊び心のいっぽうで、大人向けのオーソドックスな消しゴムも黙ってはいない。
下の写真を見てもらいたい。
形は普通の四角だが、そこに描かれているのは、ミロやピカソの作品、デフォルメされたガウディのサグラダファミリア教会だったりするのである。
うーん、やはり、情熱あふれる芸術の国だ。
もうひとつ、青りんごやオレンジ・グレープフルーツを思わせる、さわやかな色合いの、「MILAN」マークの消しゴムも忘れてはいけない。
確認のために、スペイン大使館へ出かけたところ、担当の女性は、
「まあ、私もこの消しゴム、マドリードで使ってました」
と目を細めた。
領事も、
「懐かしいなあ、小学生のとき使ってましたよ」
という話だから、スペインではかなりポピュラーな製品なのだ。
調べていただいた結果、北東部に位置するヘローナ地方、モンラス村で作られていることが判明した。
あのダリの生まれたフィゲラスも、ピカソが青春時代を送ったバルセロナも、すぐ近くである。
実は、同じマークの消しゴムを、私は遠くポーランドや、南米ボリビアでも発見した。
特にボリビアで使われていた四角い製品は、(領事の言によれば)40年も前のモデルだそうで、そうとう昔から「MILAN」消しゴムは海外諸国に行き渡っていることがうかがえる。
まさに大航海時代の勢いを感じさせる、消しゴムではないか。
さらに私は、イタリアを旅したときにも、あっと目を奪われる消しゴムの存在に驚いた。
それが、この、トランペット、チェロ、モッキン、レモン絞り器等である。
レモン・イェローと黄緑の色合いが、みずみずしい。
軽やかなラテンのリズムが響いてきそうだ。
はさみは、本物と同じように動かせるし、しゃれたメガネは、小さな子なら実際にかけてみてしまうだろう。
もうおわかりだろう、これらも、Made in Spainの製品だったのである。
すぐれたファッションとデザインの国イタリアにあっても、ひときわ注目を浴びるスペインの消しゴムは、正真正銘、世界の一級品である。
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