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ごめんなさいっ。
このページ、もっと早くに更新する予定だったのですが・・・。
なにしろ、11月にピナ・バウシュが来日し、東京での公演があったりしたものですから、「追っかけファン」の私としては、もう何も手につかない状況になってしまったのです。
「ピナ・バウシュ中毒」を読んでくださった皆様なら、わかってくださるでしょう?
いやあ、すばらしいピナ月間でした!
忘れがたい思い出が、またまたどっさり、できましたよ。
え〜、その中から・・・今日はひとつだけ。

東京、新宿文化センターで行われた公演は、「過去と現在と未来の子どもたちのために」と題されたものでした。
私は、この作品を「昨日、今日、そして明日の子供たちのために」と訳しています。
(詳しくは、「ピナ・バウシュ中毒」の第3章をお読みください。)
原題は、「Für die Kinder von Gestern, Heute und Morgen」ですし、アメリカ・インディアンに古くから伝わる物語集のタイトルからひいたものですから、「昨日、今日、明日」の方が素直だと思ったのですね。
勿論この言葉には、「過去、現在、未来」の意味も重なってはいるわけですが、ピナ自身がこういう抽象的な言葉の使い方をしない人ですし・・・。
まあ、でも、日本公開のさいのタイトルというのは、映画の例にもよくあるように、原題そのままではなく、エージェントの解釈で意訳したり、効果を考えて言葉を選んだりするものですからね。
ともあれ、この公演に、私は毎日通っていたわけです。
何度見ても、面白い!
客席にいながら、思わず身体がリズムを取ってしまう。
8回目にして、思わぬシーンにはっと気付いて、あわててメモ用紙を探すなんてこともあったりしましたよ。

さて、そんなある日のことです。
大野一雄さんが、劇場にいらしたのです。
今年97歳になられる、舞踏の神様。
(大野さんについて、「ピナ・バウシュ中毒」第6章で、ピナ自身が語っていますので、ご覧ください。)
パフォーマンスが終了して、いったんは舞台裏に入ったピナとダンサーたちでしたが、そのあとすぐさま再び舞台に戻り、そこから客席を駆け上がり、大野さんの元へと向かいました。
私も大急ぎで、あとを追って走ります。
皆が車椅子の大野さんを取り囲みました。
ピナが両の手を差し伸べると、大野さんは力強くその手を握りしめる。
その瞬間、私たちの居る場所は、現在から切り離され、永遠の時間の彼方に漂っている気がしました。
まさに神々の邂逅とでもいうような、聖なるオーラが、あたりに満ちていたのです。
思わず胸がつまり、涙がこぼれました。
大野さんに付いていらした方のひとりが、私がカメラを持っているのを見て、
「大丈夫よ。写真を撮ってください」
とおっしゃってくださいました。


ここに掲げたのが、その写真です。
あとから、こうやって見ると、泣いていたのは、私だけではなかったのですね。
その場にいあわせた誰もが、心を震わせ、涙していた・・・そんな、この上なく美しい瞬間だったのでした。


2003年11月27日  
楠田 枝里子