** Eriko Kusuta's World ** 楠田枝里子公式ホームページ **
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ダンサーの名前
この風薫る5月、またまた忘れがたい思い出が、加わりました。
毎日のように、ヴッパータール、シャウシュピールハウスでの、ピナ・バウシュの新作公演を堪能し、その後、レストランに移動して、深夜2時、3時までの愉快な食事会。
勿論ピナを中心に、ルッツ、メヒトヒルト、ドミニク、ナザレット、ジュリー、エレナ、フェルナンド、ダフニスや・・・。
メンバーの誰もが、卓越した技を持ち、心温かで、魅力的なダンサーばかり。
皆、ピナの作品制作に深く関わり、それぞれの個性がなくてはならないものとして、ステージに生かされていることは、単行本「ピナ・バウシュ中毒」に書いたとおりです。
にもかかわらず・・・。
ピナ・バウシュを論じる書籍や雑誌のなかに、ダンサーたちの名前が、正しく記されていないことを、私はとても寂しく思っていました。
長いこと、正式の公演プログラムの記載にさえ、間違いがあったのです。
初期の頃からピナと活動を共にしてきた重要なメンバーさえ、これまで正しく伝えられてこなかったとは、なんと悲しいことでしょう。
あなただって、間違った名前が堂々と、活字になって報じられていたら、不愉快でしょう?
私は、「ピナ・バウシュ中毒」のなかで、できうるかぎり正しくダンサーたちの名前を記すことも、大切な務めのひとつだと、思っていました。
そうでなければ、書いている内容も、信頼されないだろうと・・・。
世界中から集まってきたダンサーたちですから、綴りをどう読むか、難しいケースも、当然あります。
私は、ひとりひとり、名前の正しい発音を自分の耳で確認させてもらって、カタカナに置き換えました。 (中間音のような微妙な発声も多々あって、苦労したことは事実ですが・・・。)
それはなにより、すばらしいダンサーたちに、敬意を表するためでした。
たとえば、ルッツ。
フルネームは、正しくは、ルッツ・フェルスターといいます。
これまで、他の出版物には、フォースター、あるいはフォルスターと、書かれていました。
綴りは、Försterで、ö(オー・ウムラウト)は、ただの「オー」ではなく、「エー」と発音します。
だから、フォースターではなく、フェルスター。
ルッツ・フェルスター (「ピナ・バウシュ中毒」より)
メヒトヒルトも、ほとんど全ての出版物に、「メチルド」「メヒチルト」などと書かれていました。
たとえ本文が正しくても、キャプションには間違って記されていたりして、むちゃくちゃだったのです。
Mechthildが、どうして、メチルドになるのかなあ?
ドイツ人なんだから、素直に読んで、メヒトヒルトですよね。
フルネームは、メヒトヒルト・グロースマン。
今回、私はキャプションも自分で書き、ページによって表記が違うという失敗がないよう、努めました。
メヒトヒルト・グロースマン (「ピナ・バウシュ中毒」より)
こうした多くのダンサーたちの記載ミスが、これまで数限りなく繰り返されていたというのは、本当に悲しむべきことですよね。
皆さん、「ピナ・バウシュ中毒」(河出書房新社)を読んで、ダンサーの名前を正しく知り、彼らの愛すべき世界に飛びこんできてください。
そうそう、前回にもお伝えした、トマス・エルドス。
ハンガリー人ですが、フランスを中心に活動していたため、彼の地では、フランス語読みで、トマと呼ばれていました。
日本の新聞に訃報が掲載されたときも、トマ・エルドスと紹介されていたはずです。
しかし、ピナは、共通言語であるドイツ語の発音で、トマスと呼んでいたのですね。
ダンサーやタンツテアーターの関係者も、同様に、トマスと。
それで私も、自然にトマスと呼ぶようになり、本の中にも、そう記したのでした。
余計なことですが・・・。
実は私の名前も、本当は、「クスダ」じゃなくて「クスタ」なんですよ。
社会に出たとき、どうしても正しく呼んでもらえなくて、最初のうちは、いちいち訂正していたのですが、そのうち、毎日会う人ごとに訂正するのにも疲れてしまって、ついに「もう、いいや」と諦めたのでした。
「クスダ」で通ってしまいましたので、もう今では私自身も、そう発音していますけれどね。
ま、私のことなどどうでもいいのですが、美しいダンサーたちの名前は、間違ってほしくないの。
ちなみに、「ピナ・バウシュ中毒」のなかの、著者名のアルファベット表記は、正しくEriko Kusutaとなっています。
2004年5月30日
楠田 枝里子