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ピナ・バウシュからの招待状


2020年の「メッセージ」を、幸せな旅の話でスタートできることを、とても嬉しく思います。

ひと月あまり前、私は初冬のドイツ、ヴッパータールの町を訪ねていました。
ここは、私の敬愛する現代舞踊のコレオグラファー、ピナ・バウシュの本拠地。
30年も前から、毎年通い詰めて、ピナの作品を観続けてきたのでした。
ピナが急逝したのは、ちょうど10年前。
カンパニーは今もこの町を中心に活動を続けていて、世界中で公演を行っています。
しかし私はこの間ずっと、ヴッパータールには足を運べないでいました。
オペラハウスも、シャウシュピールハウスも、町の至るところが、ピナとの美しい思い出に満ちていて、とても辛かったからです。
私はいつも初夏のパリ公演で、彼らのパフォーマンスを観ることにしていました。

それでも、ダンサーのひとりから、11月にヴッパータールのオペラハウスで「ヴィーゼンラント」(草原の地)という作品が上演されるという知らせをもらったとき、心が騒ぎました。


「ヴィーゼンラント」のパンフレット


ヴィーゼンラントは、2000年初演の舞台で、私は勿論そのプレミエにも、またハンガリー、ブダペスト(ブダペストとのコプロダクションでした)でのお披露目にも駆けつけたという、思い出深い作品です。
今でも鮮やかに覚えています。
ブダペストでのプレミエの前夜、ピナ、トマス、マティアス、ペーター、ブダペストの責任者と夕食を共にしていたとき、
「タイトルのことなんだけど・・・」
とピナが話し出したのでした。
「ヴィーゼンラント、っていうのはどうかしら?」
突然のことで、一堂、言葉を失い、目を見張りました。
ヴィーゼンラント、なんて美しいタイトルでしょう。
勿論、全員が大きく頷き、その瞬間に、この作品のタイトルが決定したのでした。
(ピナの新作は、最初のうちは「Ein Stück von Pina Bausch」とか、「Tanzabend I」「Tanzabend U」と呼ばれていて、後から正式なタイトルが決められるのです。)
歴史的な瞬間に立ち会わせてもらった、と私が体を震わせていたことは、言うまでもありません。
その作品が、また再演される!
しかも今回、オリジナル・メンバーが結集するというのです。
こんな機会は、もう二度とないかもしれません。
それなら・・・「オリジナル観客」の私も、参加しなければならないわ。
おそらくそれは、長い間ヴッパータールに足を踏み入れることのできなかった私への、ピナからの招待状だったのでしょう。


開演前のステージ
チケット


「ヴィーゼンラント」を、2夜に亘って、味わいました。
愛に溢れた、美しい作品です。
しみじみと心満たされる、幸福感でいっぱいになりました。
ピナらしい遊びや仕掛けにも、観客はおおいに沸きました。
ダンサーたちが客席に向かって、次々パンを投げるシーンでは、私も首尾よく、一袋をキャッチしましたよ。


ブッタートースト


不思議でした。
数えきれないほど、この作品を繰り返し観てきているのに、まだそこここに新鮮な驚きや、今になって、はっと気づかされる発見がある。
自分の中になお進化している感情があることに思い至り、私は感謝の気持ちでいっぱいになって、静かな涙を流しました。
(これだから、ピナはやめられない、のですよね。)

いつまでも、拍手は鳴り止みませんでした。


オペラハウスに向かう前には、懐かしいメンバーと連絡を取って、私の気に入りの美術館フォン・デア・ハイツ・ムゼウムのカフェで落ち合いました。


ルッツ・フェルスター


初期のころからピナと共に歩んだ、スター・ダンサー。
1989年、私が初めて触れたピナ作品「ネルケン」の衝撃的なファーストシーンが、ルッツによる「The man I love」でした。
つい先日のメキシコでのパフォーマンスのDVDを、私にプレゼントしてくれましたよ。


ウルス・カウフマン


私がヴッパータールに通い始めたころ、なにかと心配りをしてくれたダンサー。
ピナ・バウシュの世界への最初の扉を開き、ファミリーの一員へと私を誘い入れてくれたのも、ウルスでした。
10年ぶりに会ったけれど、少しも変わらない笑顔に、嬉しくなりました。


ペーター・パプスト


ステージ・アーティスト。
ペーターの生み出す迫力ある舞台なくしては、ピナ作品は語れません。
私に会うため、わざわざ車を飛ばして、オペラハウスに駆けつけてくれました。
ケルンの住まいの他に、ヴェネツィアにも家を持っていて、今度は彼のボートで運河を回ろうと、話が弾みました。


サロモン・バウシュ


オペラハウス前のブラッセリーで、ピナの息子のサロモンと約束しました。
現在は、ピナ・バウシュ・ファウンデーションを取り仕切っています。
ピナと同じ、優しくてきれいな眼差しの青年です。
頭上にピナの写真が掲げてあるテーブル席に座って、3人で一緒に写真を撮りました。
この日思いがけず、サロモンがピナの遺品を私に分けてくれたのには、感激しました。
ピナが大事に持っていたものだそうで、きっと何か深い物語が込められているに違いありません。
東洋のものなので、エリコなら知っているのではないか、とサロモン。
どうやら、古い中国の小物のようなのですが・・・残念、私には全く分かりません。
縦6センチ、横9センチ。
象牙に猿の絵が刻まれています。
周囲には虫や鳥の姿が描かれ、それぞれの窓が開くように細工されているのです。
何かのゲームでしょうか・・・?




友人を当たってみましたが、謎は解けません。
どなたか、ご存じの方がいらっしゃいましたら、ぜひお教えいただけませんでしょうか?
info@erikokusuta.com まで、どうぞ宜しくお願い致します。



さて、ヴィーゼンラントの最終日の公演が終わったあと、ブラッセリーの2Fを貸し切りにして、ダンサーたちが集まってくれました。
在りし日、舞台が跳ねたあと、ピナは必ず私を夕食に誘ってくれたものです。
「エリコ、ご飯食べに行きましょう」
それと同じように、ダンサーたちが、私とディナーを共にしてくれたのです。
プランを練り、コーディネートしてくれたのは、なかよしのダンサーのダフニスでした。


ダフニス・コキノス


賑やかな食事会になりました。
ヴィーゼンラントのなかに、長いテーブルを囲んで皆が座って、大騒ぎで食事する愉快なシーンが出てくるのですが、まるでそのテーブルを再現したかのようでしょ!




最後に、飛びっきりのプレゼントが待っていました。
ヴィーゼンラントのポスターに、皆がサインを入れて、私に贈ってくれたのです。




胸が詰まる思いでした。
なにもかも一瞬の夢だった、と告げられても、私は驚かなかったでしょう。
ヴッパータールで、こんな幸せがまだ私に残されていたなんて!!

ありがとう、みんな!!
ありがとう、ピナ!!!


2020年1月12日  

楠田 枝里子