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ピナ・バウシュを追いかけて


もう20年以上も、毎年、私は5月をヨーロッパで過ごしていますが、それにはいくつか理由があります。
一番大きいのは・・・やはりピナ・バウシュの作品を追って長年旅してきたからでしょう。
このサイトをご覧くださっている皆様は、よくご存じでいらっしゃると思うのですが、ピナは毎年5月に新作の発表を行っていたので、そのプレミエにどうしても参加したいと、本拠地であるドイツのヴッパータールに私もかかさず飛んでいたのですね。
6月に入ると、パリのテアトロ・ド・ラ・ヴィルにて、前年の作品の上演が慣例だったので(1年を経て、練り上げられた作品の完成度はすばらしかったです!)、スケジュールが許せば、6月までヨーロッパに滞在して、パフォーマンスを楽しんでいました。
悲しいことに、ピナは6年前に急逝し、もう新作公演はありません。
しかし、カンパニーのメンバーは今も作品の上演を行っていて、ピナ・バウシュの世界を守り続けているので、皆を激励する気持ちも込めて、私はヴッパータールへ、またパリへと通っているのです。
ええ、勿論、今年も!

今回は、ちょうど滞在中にパリで、すばらしい2作品の公演がありました。
ひとつは、「ネルケン」(カーネーション)。
私にとって最も大切で、思い出深い作品です。
初めてのピナ体験が1989年のこの舞台で、私はたちまちその世界のとりこになってしまったのでした。
拙著「ピナ・バウシュ中毒」の表紙に選んだのも、このステージの写真です。

今回の劇場は、テアトロ・ド・シャトレー。


シャトレ―劇場。

劇場の入り口に貼られたポスター。

「ネルケン」の舞台。
一面に敷き詰められたカーネーションのピンクが、恐いほど美しい。



何度見ても、往時の途方もない感動が甦り、涙を抑えることができません。
勿論、時が移るにつれ、キャストも幾分変更され、たとえば、重要なドミニークのパートを、今回はフェルナンドが意欲的にカバーしていました。
(公演終了後、フェルナンドに、「おめでとう。すごくうまくやってたわね」と声をかけると、彼はちょっとはにかんだ表情で、「優しい言葉をかけてくれて、ありがとう」と返事してくれました。)
最後は、観客全員が立ち上がってのスタンディング・オーベーション。
そこにピナの姿がないことに、胸が詰まりました。


舞台は大成功でした。



もうひとつのパフォーマンスは、「昨日、今日、明日の子供たちのために」(オリジナル・タイトルは、「フュア・ディー・キンダー・フォン・ゲステルン・ホイッテ・ウント・モルゲン」。とても長いので、私たちは短く「キンダー」と呼んでいます)。
劇場は、いつものテアトロ・ド・ラ・ヴィルでした。
初演が2002年ですから、私は13年にわたり繰り返し目にしてきたわけですが、今回あらためて、なんと洗練された美しい作品だろう、と感動しました。
やはりこの舞台も、最後はスタンディング・オーベーションで、拍手がいつまでも鳴りやむことがありませんでした。


カーテンコールは、何度も繰り返されました。



テアトロ・ド・ラ・ヴィルのすぐ隣に、いつも皆が集まるカフェがあります。
そこで、馴染みのダンサーたちとおしゃべりするのも、大きな楽しみのひとつです。
また今回公演のあった2つの劇場の並ぶシャトレ―広場には、他にも夜遅くまでオープンしているカフェやビストロがあって、公演後そこで軽く食事をすることも少なくありません。
その夜も、懐かしいメンバーとの久しぶりの再会に、嬉しいひとときを送ったのでした。


ダンサーのジュリーやエレナやダフニスら、関係者と1枚。

カフェでひと息ついていたナザレットと。

現在芸術監督を務めているルッツが、食事に誘ってくれました。
マティアスも、ミュンヘンから駆けつけましたよ。



帰国後、ダンサーのフランコから、1枚の絵葉書が届きました。
フランコとはいつもメールでやりとりしているので、郵便とは珍しいな、と見ると・・・。
写真は、本拠地であるドイツ、ヴッパータールの名物のモノレール。


「シュヴェーベバーン」と呼ばれます。



1950年サーカスの子供のゾウをモノレールに乗せたことがあったのですが、ゾウは窓を打ち破って、下のヴッパ―川へ転落。
これはその瞬間の貴重な写真です。
(幸い、ゾウはかすり傷を負っただけでした。)

そして、その絵葉書の宛て名のスペースを見て、私はあっと声をあげました。
そこに貼られていたのは、ピナ・バウシュの記念切手!!
さらに、ヴッパータール郵便局の消印にも、ピナの名が!
ピナの有名な言葉「私が興味深いと思うのは、人がいかに動くかではなくて、何が人を動かすかだ」も刻まれています。
すごいっ。


ピナ・バウシュの記念切手とスタンプ。



フランコはこれを私に知らせるために、わざわざ郵便局まで出向いて、絵葉書を送ってくれたんですね〜。
大感激です。
ありがとう、フランコ!


2015年9月10日  

楠田 枝里子