** Eriko Kusuta's World ** 楠田枝里子公式ホームページ **
■ マリア・ライへ基金より、御礼

■ 幸せな、時間の贈り物

■ サロン・デュ・ショコラ2017

■ サロン・デュ・ショコラ・パリ

■ マルコリーニさんのアトリエ

■ 世界のどこかで

■ 毎日、シュパーゲル

■ ペギー・グッゲンハイム・コレクション

■ サロン・デュ・ショコラ2016

■ チョコレート、チョコレート

■ ゴンドラに揺られて

■ ピナ・バウシュを追いかけて

■ ホワイトアスパラの季節

■ 絵本「かぞえる」

■ パリ、美食の日々

■ ナスカを想う夜

■ ヴッパータール、ヴッパータール

■ なるほど!同窓会

■ スイスの休日

■ ナスカ・パルパを巡る国際講演会

■ 長谷川博さんのこと

■ ピナ・バウシュに会うために

■ チョコレートの奇跡

■ J.P.エヴァンのクリスマス・コレクション

■ ピナを想う

■ 楠田枝里子オリジナル・ジュエリー

■ 2010年の初めに

■ ピナ・バウシュ追悼

■ 訃報

■ 年賀状

■ 楠田枝里子のフィギュア消しゴム

■ パリにて、チョコレート三昧

■ 春の宴

■ 「パレルモ、パレルモ」に酔う

■ 年明けのご挨拶

■ スタッフを、募集しています

■ チョコレート・レストラン

■ ピナ・バウシュの新作に酔う

■ 生駒編集長からのプレゼント

■ 話題のラス・シクラス遺跡

■ まるみえ誕生会2007

■ 寒い冬の日は、りんごのケーキで

■ 自分の力で、電気を起こす

■ どうぞ良いお年を!

■ クリスマス・ケーキ、シュトレン

■ チョコレートの季節

■ 新発見、ナスカの地上絵

■ まるみえ、似顔絵大会

■ ナスカ、パルパそしてシクラスへ

■ バー・ラジオ

■ 5月の静かな涙

■ まだ、ピナ月間

■ いざ、ピナ月間

■ まるみえ誕生会2006

■ 2006年の、ニューフェイス

■ サイン本と、衣装プレゼント

■ パラシュート

■ 東京湾大華火祭

■ ダイアン、フロイト、そしてピナ

■ 続く、ピナ月間

■ また、ピナ月間

■ バルタバスの春

■ 新年に、絵本メール

■ チョコレート・ダイエット

■ ナスカへ

■ 夏、祭りのあと

■ 私のピナ月間

■ 夢のような日々

■ ゆかいな帽子

■ 珍しいキノコ

■ 真っ暗闇のなか

■ 新年は花火とともに

■ お礼

■ FNS歌謡祭

■ ピナ・バウシュ中毒

■ 衣装プレゼント

■ 火星、大接近!

■ からくり人形

■ 天の助け

■ 検索エンジンの不思議

■ ペルーの子供達

■ 鯉のぼりを着る

■ お掃除ロボット

■ まる見え誕生会

■ はじめまして!


Copyrights



「パレルモ、パレルモ」に酔う


東京の桜がほころびはじめた週末の午後、ピナ・バウシュの「パレルモ、パレルモ」を観るために、テアトロ・ジーリオ・ショーワに向かいました。
1989年初演の伝説的な作品で、日本では初めての公演。
見所のひとつは、まず、何といっても、開演してすぐ、ステージ正面いっぱいにうず高く積まれたブロックの壁が、一瞬にして崩れ落ちることでしょう。
轟音とともに、あたりにもうもうと埃が舞いあがり、そのなかでパフォーマンスが展開されていきます。
当時、この舞台美術が決定して1週間後に、ベルリンの壁が崩壊したことから、「ピナはベルリンの壁の崩壊を予言した」と、おおいに噂されたものでした。
日本でも幾度か公演の話が進みましたが、その衝撃の大きさに耐えられる劇場が見つからず、延び延びになっていたものです。
(89年12月のイタリア、パレルモでの初演では、ブロックが劇場の床を突き破ったのですから、受け入れ先が慎重になるのもわかりますよね。)

やりきれない思い、剥き出しの敵意、生きのびるために果てしなく続く戦いと、そのさきの祈り・・・。詳しくは、「ピナ・バウシュ中毒」第2章で読んでいただきたいのですが、重々しく、激しい悲しみをたたえた作品です。

ええ、今回もすばらしいパフォーマンスでした・・・ただ・・・。
正直に言うと、今回の日本公演は、少し印象が違っていました。
以前ヨーロッパで見たときより、随分明るく、優しい雰囲気になっているようです。
どうもライティングがベタで、作品世界の深みを奪っている感じ。
舞台に奥行きもないようにも感じられます。
なにより残念だったのは、パフォーマンスが始まる時間まで、ステージにはえんじの緞帳が下がっていて、舞台装置を隠しており、とても興醒めだったことです。
ピナの舞台は、見る人の現在、日常と繋がっており、連続線上で展開されるべき。
客席に腰を下ろして、舞台装置にほおっと息をつき、その空間にもなじんだころ、突如その世界が崩壊する・・・そうでなくっちゃ、面白くないじゃないですか。
ブザーが鳴って、するするとありきたりの緞帳が上がり、さあパフォーマンスが始まります、というような古臭いやり方はヤボなのですね。

とまあ、私なりに気になったところを思いつくまま書いてしまいましたが、ごめんなさい、私がこの作品を愛してやまない証拠、その想いの熱さゆえと、お許しください。
勿論、拙著にも書いたとおり、作品は生き物ですから、その時代やメンバーによって進化していくもの。
かつての幻影を追いかけてばかりいても、仕方ないのですね。
日本の劇場の限られた条件のなかで、変更せざるをえないこともでてくるでしょう。
そして、そうしたこと全てを認めたうえで、「やっぱりピナ作品は、すごい」と感嘆する、圧倒的な魅力、説得力が、この作品にはあります。
またもう一度、いつか、どこかの町で、「パレルモ、パレルモ」に出会いたいものです。

終演後、劇場近くのカフェのテラスで、ピナとお茶を飲みました。
山海塾の天児さんや、舞台美術家の小竹さんも一緒です。
気心の知れたメンバーでのくつろいだ時間・・・。


夕暮れ時は、さすがに肌寒くなっていました。
ピナは自身の黒い長いストールを「シェアしましょう」と、
私の肩にかけてくれました。
その優しさに、私は恐縮すること、しきりです。

小竹さんがすかさず携帯で写してくださった3枚は、
さすがに味のある、いい写真ですねえ。


ピナの姿を見つけた若者が、次々やってきて、話しかけたり、握手やサインを求めたりしました。
なんと美しいこと!
ピナ・バウシュが日本で、これほど若い世代に受け入れられ、愛されるようになったことを、私はとても幸せに思ったのでした。


2008年3月24日  

楠田 枝里子