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「鮎正」の鮎尽くし


新橋に「鮎正」という料理店があったことを、ご存じでしょうか?
東京で唯一、天然鮎のフルコースメニューをいただける専門店で、私はこのお店が大好きでした。
毎年、この季節を待ちかねて、いそいそと足を運び、好物の鮎料理に舌鼓を打ったものです。
6月には稚鮎、7月、8月は最盛期の繊細で深い味わいを、10月には子持ち鮎の豊かな存在感を活かしたメニューをと、その時々で料理法が異なり、シーズン中何度でも楽しめるのですね。


<骨せんべい>
鮎の骨をそのまま素揚げしたもの。
まずは1杯のビールのおつまみに、最適です。
<付き出し>
鮎とともに、季節を感じるお皿ですね。
<清水椀>
澄んだお吸い物の中に、上品に味の染みた大根、
その上に焼きたての小振りの鮎。
鮎の皮のパリパリ感が失われないうちに、急いで口に運ぶ。
<瀬越し>
なんと、鮎のお刺身です。
舌の上でコリコリ軽快に跳ねる鮎独特の食感が、たまらない。
<煮浸し>
旨味の詰まったおつゆのなかに、その旨味をいっぱいに含んだ鮎。
鮎正のご主人の生み出した、オリジナルのお料理で、
またひとつ鮎の新しい魅力を発見したと、感動します。
<塩焼き>
なんといっても、高津川の鮎は、日本一!
清らかな水の流れを感じさせる、薫り高く、ふくよかな味わいと、
見事な焼き具合の小気味よい皮の感触が、絶妙なバランス。
ご主人がひと手間かけた特製の蓼酢で、極上の塩焼きをいただく・・・
これ以上の贅沢があるでしょうか。
あまりに気に入って、1尾だけではとても足りない。
私はいつもスペシャルで、お皿に3尾並べてもらい、
生まれの違う鮎の味比べを楽しんでいました。
<うるか>
この鮎の姿の器は、ご主人が特注したもので、
背びれの蓋を開けると、鮎の内臓の塩辛が入っているのですね。
最低1年かけて、仕込みます。
(3年物や5年物もあると聞いた気がします。)
お酒飲みを唸らせる逸品。
<うるかなす>
こちらは新鮮な鮎の内臓を使って拵えた味噌と、なすを合わせた傑作。
私の大好物で、これも鮎正のご主人の新しいクリエーションです。
<酢の物>
鮎は酢の物にしても、こんなに美味しいのだと、驚きの一品。
<鮎ご飯>
〆はやっぱり鮎ご飯ですね。
ふんだんに鮎を使った、大満足の一品。
嬉しいことに、おひつで供されるので、
私はいつもお代わりしていましたよ。
<氷菓>
鮎三昧のあとには、さっぱりすっきりの氷菓。
ほどよい甘味と酸味の爽やかな梅が、心憎い演出で、
よく考えられたデザートです。


すみません、私のシロウト写真なので、あまりうまく写せていませんが、本当はこの10倍も20倍も美しく、おいしいお料理の数々なんですよ。

振り返ってみれば、鮎正さんとは、長い長いお付き合いです。
40年あまりも昔、テレビ番組のロケで、私が島根県日原にお邪魔したのが、きっかけでした。
鮎に目がなかった私は、高津川で、大喜びで鮎の友釣りを経験させていただいたのです。
そのとき、私に教えてくださった先生が、山根一晃さん。
日原の「美加登家」という料亭を営む山根家のご長男でした。
夜になって、美加登家さんで釣りたての鮎三昧を楽しめたときにはもう大感激で、その至福の時間は、いつまでも忘れられないものとなりました。
この料亭を本店とし、新橋に「鮎正」という料理店がオープンしたのは、昭和38年6月1日、まさに鮎の解禁日でした。
鮎正の店主であり、板長には、5人兄弟の末っ子の恒貴さんが就かれ、次女の啓子さんがてきぱきと店内を取り仕切りました。
ご兄弟のお父様は、美加登家の創業者である山根正明さんで、その名前の「正」をとって、「鮎正」と名付けられたのですね。
「東京の人にも、高津川の天然鮎の美味しさを知ってもらいたい」
という熱い思いからだったそうです。
高津川は、日本で唯一ダムのない一級河川で、流れが激しいために苔が始終生まれ変わります。
鮎は、その新鮮な苔を餌とするので、香りも旨味も豊かで、ふくよかに育つのですね。


お店の前で。
左から、ご主人の息子さん、ご主人の恒貴さん、女将さんの啓子さん、私。
啓子さんは、いつも黒の絽の着物をキリリと着こなし、
立ち居振る舞いが美しい。


本当に残念無念なことですが、鮎正さんは、昨年末で、お店を閉められました。
連日満席のお客様で、予約を取るのが大変だった繁盛店だったのですが、突然のクローズの理由は、ご主人が体調を崩されたためでした。
鮎をこよなく愛し、次々に秀逸な鮎料理を生み出し、その世界を極めていらした鮎の匠、山根恒貴さん。
何よりもお体を大切にしていただかねばなりませんから、仕方のないことと十分承知しているのですが・・・私はショックで目の前が真っ暗になり、途方に暮れてしまいました。
鮎正の天然鮎がなければ、私に夏はやってきません。
今年から、私はいったいどこで、美味しい鮎をいただけば良いのでしょうか?
これはもう・・・本店、日原の美加登家まで足を運ぶしかないかと、考え始めています。
一晃さんはすでに亡くなりましたが、その息子さんが、後を継いでいらっしゃるそうです。
鮎正のお料理も、そちらできちんと引き継がれていると聞きました。
(美加登家 島根県鹿足郡津和野町日原221−2
      Tel.0856−74−0341)

最後の記念にといただいた、うるかのための鮎の形をした器を手にとっては、鮎正の絶品料理、その比類ない味わいを、私は次々思い出しています。
縁あって、長く通わせていただいた幸せを、しみじみと噛みしめています。
お世話になったご主人、女将さん、鮎正の皆さんに、心からお礼申し上げたいと思います。
天下一品、鮎正の鮎尽くしは、私の心に、舌に、永遠に生き続けるでしょう。


2019年7月31日  

楠田 枝里子