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ありがとう、マリオン
訃報が飛び込んできたのは、1週間ほど前のことでした。
マリオン・・・。
マリオン・スィトー。
マティアス、マリオン、ルッツ、ピナ。
ヴッパータールのマティアスの自宅にて。
現代舞踊の世界を革命的に切り開いた、あまりにも有名なコレオグラファー、ピナ・バウシュ。
マリオンは、そのコスチュームデザインを取り仕切った、チャーミングな女性でした。
ダンサーとしてのキャリアも持っていた、彼女の生み出すコスチュームは、ダンスシーンの常識を引っくり返すと同時に、ため息が出るほど美しかった。
そのクリエーションなしに、比類ないピナの舞台は完成しなかったでしょう。
客席の最後列に、つねに、ピナとふたり並んで、パフォーマンスを見守っていました。
何やら話し込んだり、頷いて笑ったり、変更箇所をチェックしたり・・・。
マリオンは、長い人生、ずっとピナに寄り添い、苦楽を共にし、全てを受け入れてきた、ピナの片腕だったのです。
日本公演のオープニング・レセプションにて。
ゼネラルマネージャーだった、マティスと。
新宿文化センターでの公演後の楽屋にて。
左から、ドミニーク、フェルナンド、ジュリーアン、私、エレナ、マリオン、ザビネ、
前左から、ダフニス、ナザレット。
東京の私の自宅にて。
左から、メヒトヒルト、マティアス、マリオン、ピナ、トマス、私、ペーター、ナザレット、
前左から、ダフニス、ウルス、ルース、ドミニーク、ヨランダ。
私がマリオンに最後に会ったのは、コロナ禍前夜、2019年の12月初めでした。
療養中の彼女のお見舞いに、ヴッパータールのアパートに足を運んで。
以前にも何度か、私はその趣味の良い気持ちのいい部屋で、のんびりした午後を過ごしたことがあります。
マリオンの淹れてくれたコーヒーは、最高に美味しかった。
「ヴッパータールで一番のパティスリーのなのよ」
と、いつも食べきれないほどたくさん、ケーキを用意してくれていたものです。
ひとしきり、おしゃべりして、開演に間に合うように、一緒にオペラハウスか、シャウシュピールハウスに向ったのでした。
最後に訪ねたときには、もうコーヒーを淹れることはできなかったけれど、私がお土産に作っていったフォトブックを、楽しそうに見てくれました。
30年にも渡る、忘れがたい日の断片をセレクトした、小さな写真集でした。
表紙に「Liebe Marion」、
最後のページに「1000 Dank!!!」
(1000回の感謝を)
と私が書いた文字を、声を出して読み、快活な少女のように笑い、愉快なおしゃべりを聞かせてくれたのでした。
真っ白な髪をボブヘアにカットし、マリオンはとても美しかった。
どこかで、みんなで、何かを、待っていました。
ヴッパータールにて。
ヴッパータールにて、
メヒトヒルトと。
ああ、マリオン!
この1週間、あなたのことを思うたび、涙が止まらない。
ヴッパータールで、パリで、ヴェネツィアで、東京で・・・たくさんの思い出が溢れ出し、もう言葉にならないわ。
今日ここで振り返れるのは、ほんの一瞬。
なんと、すばらしい日々、すばらしい、美しい人々・・・。
幸せな時間を、ありがとう、ありがとう、マリオン!!!
新作のプレミエの夜。
ヴッパータール、シャウシュピールハウスにて。
マリオンは、ピナのそばに埋葬されることになったと、聞きました。
今頃、ピナとふたり、どんなおしゃべりをしているでしょう?
冗談を言って、笑っているかな?
あるいは、次の作品のプランを練っているでしょうか?
新作のプレミエの夜。
ヴッパータール、シャスシュピールハウスにて。
Liebe Marion!
1000 Dank!!!
Deine Eriko
2023年12月10日
楠田 枝里子