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フェルベールさんのアトリエ、アルザス
フランス、アルザスに旅したのは、初めてのことでした。
「コンフィチュール(ジャム)の女王」として世界的に有名な、クリスティーヌ・フェルベールさんを、訪ねたのです。
「ぜひ一度、アルザスにいらっしゃい」
と3年ほど前から誘われていて、今年やっとそれが実現したというわけです。
パリからTGVでストラスブールへ、そこで乗り換えて、コルマールへ。
駅に、クリスティーヌさんが迎えにきてくれていました。
彼女の運転する車で、街を一巡り案内してもらうと、まあ!
絵本に描かれたメルヘンの世界そのままの情景が続いていて、夢を見ているよう・・・。
街を流れる川辺のカフェで、休憩。
コルマールから車で15分くらいの、ニーダーモルシュヴィーアというところに、フェルベールさんのお店があります。
なんて、かわいいおうちでしょう!
入口で、1枚。
お店のなかに入って、びっくりしました。
パンにケーキに、お惣菜、種々の日用品・・・ここにくれば、何でも揃う、って感じです。
勿論、クリスティーヌさんのコンフィチュールも!
私は、アルザスのきれいな絵葉書を見つけて、買ってしまいましたよ。
一番左のネコのイラストは、ポストカードではなく、
ハガキ大のノート、なんですよ。
夕方、ジャン=ポール・エヴァンさんご一家と合流しました!
カイザースベルクにある、オリヴィエ・ナスティという2つ星レストランで、最高のディナーです。
一緒にアルザスへ遊びに行きましょう、と今年の1月に話が盛り上がったとはいえ、お忙しいエヴァンさんが、まさか時間を捻出してくださるとは・・・大感激です!
きめ細かに気を配ってくださる奥様と、小さなジェントルマン、愛らしい息子さんと、思いっきり楽しんで、本当に、輝きに満ちた3日間でしたよ!!
翌日は、ニーダーモルシュヴィーアの村の小さなお祭りに、参入。
焼きたての名物パンケーキをパクつきました!
右から、エヴァンさん、フェルベールさん、弟のブルーノさん、私。
そうそう!
私の本来の目的は、フェルベールさんのアトリエを訪ねることでした。
お店の奥が厨房になっていて、次々にお菓子が出来上がっていきます。
なんと、60年前、ご両親が結婚式の3週間後にオープンさせた、愛情のこもったお店なんですって!!
長い年月使い込んだキッチンは、とても素朴で、温かくて、歴史を感じさせる空間。
壁際に、お父様の写真が貼ってありましたよ。
クリスティーヌさんは、このお父様のお仕事を継がれたのです。
心は今も、お父様と共にある、ということなのでしょう。
このスウィーツは、お父様のクリエーション。
フェルベール家のロングセラーです。
実は!
クリスティーヌさんは、この近くにもうひとつ、新しいアトリエを構えています。
お店とは全くテイストの違う、モダンな建物。
最新式の設備が揃った、広々とした空間には、エヴァンさんも、私も、感嘆の声をあげました。
清潔でピカピカに磨き上げられ、整然と管理されて、チリひとつ見当たらない。
「このアトリエは、できあがったばかりで、まだ使ってないの?」
との私の質問に、クリスティーヌさんは、
「あら、もう3年にもなるのよ」
と笑いました。
さすが、食品を扱う空間への気配りが、隅々まで徹底していますね。
私が何よりステキだと思ったのは、どのお部屋も、壁面いっぱいに大きく窓を取ってあって、アルザスの美しい風景がどこまでも広がっていたことです。
のんびり草を食む、鹿の姿も見えます。
毎日、大自然の緑や空に包まれ、癒されながら、お仕事できるなんて、この上ない幸せですね〜。
エヴァンさんとクリスティーヌさんが話し込んでいます。
どうやら、新しいチョコとコンフィチュールのコラボレーションが誕生するようですよ。
クリスティーヌさんの絶品コンフィチュールも、続々と生み出されていました。
初夏のスペシャリティは、「ルバーブのコンフィチュール」と、「黒い森のチェリーのグリオット」!!
その美味しさといったら・・・ひゃ〜、驚嘆して、唸るしかない!
豊かな森や果樹園でつんだばかりの、瑞々しいフルーツが、品のよい甘みのマントをまとっていて、のどの奥に、その深い旨味がいっぱいに広がって・・・。
ランチに出していただいたコンフィチュールを、私は大喜びで、次々口に運びました。
もう、手が止まらない。
フェルベールさんのコンフィチュールを一度味わったら、他のジャムは食べられなくなるのですよ!
クリスティーヌさんは、年間300〜400種類ものコンフィチュールを作っていらっしゃいます。
ちょうど秋の今の季節のスペシャリティは、林檎とキャラメル、梨とバニラ、いちじくとオレンジ、マルメロとしょうがクッキースパイス・・・ですって!
わ〜〜、すぐにもアルザスに飛んでいって、味わいたいなっ!!
2日目のディナーは、イルハウゼンの3つ星レストラン、オーベルジュ・ド・リル。
飛びっきり贅沢な夜でした。
シェフと、クリスティーヌさんと、私。
宿泊もここのホテルだったのですが、とても現実と思われない、アルザスの懐に抱かれるような美しい体験でした。
フェルベールさんの作品の秘密に触れた気がしました。
彼女のコンフィチュールには、このアルザスの眩しい光や清浄な空気や緑の風が、溶かしこまれているのですね。
それが、他に類を見ない、世界一の味わいを生み出しているのでしょう。
思い出深い貴重な時間を与えてくださったクリスティーヌさんの心遣い、優しさと温かさに、心からの感謝を!
パリに戻る列車の時間、コルマール駅に向かう道すがら、民家の屋根に、コウノトリの巣を見つけて、歓声を上げました。
コウノトリは、アルザスのシンボルなんですって。
オーベルジュ・ド・リルの軒にも、庭にも遊んでいて、
「なんて平和な光景だろう」
とうっとり見とれてしまった私でした。
ああ、アルザスは、最後まで、心躍る絵本の世界でした!!
2018年9月18日
楠田 枝里子