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真っ暗闇のなかで


前回のメッセージで、真っ暗なレストランのこと、書きましたよね。
実は、私、もっとすごい暗闇体験をしているのです!

「Dialog im Dunkeln」という、これまたドイツから発信されたプロジェクトです。
「暗闇のなかの対話」とでも訳しましょうか?

巨大な真っ暗な空間のなかに、草原や、砂地や、竹林や、小川の流れる水辺など、さまざまな場所が設定されています。
訪れる人は、5〜6人のグループとなって、なかに入ります。
真っ暗ですから、どこをどう進んでよいか、わかりません。
ガイドさんが、案内をしてくれます。
その方が、なんと盲人なのです。
「こちらに、いらしてください」
と声が聞こえても、私たちには、最初、それがどの方向をさしているのか、なかなかわかりません。
でも、こわごわ前に進んでいくうちに、だんだんと、声の聞こえてくる方向がわかってきます。
踏みしめる足元の草の感触、砂のざらざらしたようすも、感じられるようになります。
竹林の緑の匂い、ちょろちょろと水の流れる音、人の動くかすかな空気の動きさえ、敏感にとらえられるようになります。
なんとも、不思議です!
視覚情報が失われてしまったぶん、その他のありとあらゆる感覚が、せいいっぱいに目を覚まして、働きだしたような、そんな気分です。
いつもは眠ってしまっていた感覚が、自分に備わっていたなんて思ってもみなかった感覚が、鋭く研ぎ澄まされて、取り巻く世界の情報を、雄弁に伝えてくれているのです。

途中、広場に出ると、ガイドさんがこう言いました。
「みなさん、こちらに集まってください。
楠田さんは、あと2歩、右斜め前に」
私は、心臓が止まってしまうほど、びっくりしました。
暗闇のなか、何も見えないというのに、なぜ、彼は私の位置をそんなに確実に把握できるのでしょうか?!
どうやら、私の声が壁に跳ね返って聞こえてくるときの響き方や角度で、方向や距離を判断しているらしい、とわかりました。
まさに、彼には、人々の位置が、見えているのです!

真っ暗闇のなかで、ブランコにも乗りました。
空を飛ぶ体の浮遊感、びゅんびゅんと風を切る皮膚の感覚を、濃密に味わいました。

さらに、暗闇の旅の終わりに、私たちは、森のなかのカフェへとやってきました。
「そこに、木のテーブルと椅子がありますから、腰掛けてください」
との言葉に、皆手探りで、椅子を探しあてます。
「このカフェで、お茶でも飲んで、ちょっとおしゃべりをしましょう。
コーヒー、紅茶、ワイン、ビール、コーラも、オレンジジュースもあります。
何になさいますか?」
私たちは、てんでに飲みものを注文します。
私は、一番容器がしっかりしていて、失敗のなさそうなビールを選びました。
やがて、ガイドさんは、私の前にグラスを持ってきました。
「楠田さん、ここにグラスを置きますから、しっかり持っててくださいね」
私はまた手探りでグラスを探し当て、握りしめます。
すると!
ガイドさんは、瓶ビールの栓を開け、上からグラスにトクトクと、ビールを注いだのです。
いったい、どうして、間違いなく、グラスに注ぎいれることができるのか!
いやもう、ただ、ただ、驚くばかりでした。

なんと美しい、幸せな世界を体感させてもらったのでしょう。
それまで私は、
「目が見えなかったら、さぞ寂しいことだろうな」
と思っていました。
けれど、それは、全くの間違いでした。
暗闇のなかは、信じられないほど、華やかで、にぎやかで、豊かな世界だったのです!
目が見えるために、見えなくなっているものの、なんと多いことでしょうか。

この世界の途方もない大きさを、私だけでなく、たくさんの人に体験してもらいたいものです。
大人にも、子供たちにも。

来年2005年は、「日本におけるドイツ年」。
日本でも、このプロジェクトを本格的に紹介してもらえないだろうかと、私は心から期待しています。



2004年2月25日  
楠田 枝里子