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シートベルト着用サインが消えたと思ったら、スチュワーデスが何やらカラフルな包みをかかえ、こぼれんばかりの笑顔で、後方の座席に向かっていった。
私は身を乗り出し、視線を送る。
はたして、そこには、母親の胸元で目を真ん丸にしている幼児と、隣のシートに埋もれるように腰かけ、足をばたつかせている小学生の顔があった。
まもなく、子供らのはしゃぐ声が響いてきた。スチュワーデスが手渡したのは、絵本? パズル? ぬいぐるみ? それとも‥‥!
意を決し、私は、通路を戻っていくスチュワーデスに声をかける。
「あのう‥‥お子さんへのプレゼント用の、飛行機の形をした消しゴムがあったら、私にもいただけませんでしょうか?」
周囲の乗客が、怪訝そうな眼差しを投げかける。
スチュワーデスが、
「あ、はい、ただいまお持ちいたします」
と、にこやかに対応してくれると、ほっとするのだが、ほとんどの場合、
「あいにく、消しゴムはおいてございません。ミニーちゃんの風船ではいかがでしょうか。それか、飛行機でしたら、プロペラの回るビニールのおもちゃがございますが‥‥」
なんて言われるものだから、恥ずかしい。
あたりから、くすくす笑いが聞こえてくる。
こんな体験を幾度も重ね、ようやく手に入れたのが、JALの飛行機消しゴム。
ボーイング747と、767だ。
タラップ車や、ト−イングトラクターまで付いてセットになっているスグレモノで、嬉しくって、それから1週間顔がほころびっぱなしだった。
ひょっとすると他の航空会社でも、消しゴムを作っているのではないかと、著名なエアライン15社の東京オフィスの広報部に、かたっぱしから電話を入れたこともある。
しかし、飛行機形の消しゴムがないかなんて、先方にとっては、くだらない問い合わせだ。
ていねいに対応してもらえるはずがない。
半数以上は、機械的に返答をし、そそくさと話を終えようとするのだった。
さすがに、ヨーロッパのかなり大手の航空会社から、
(この忙しいのに、なにが消しゴムよ、フン)
というニュアンスでけんもほろろに電話を切られたときには、私もちょっぴり傷ついて、
(ここの飛行機には、もう乗りたくないなあ)
なんて弱気になってしまったけれど‥‥。
そんななかで、実に親切に付き合ってくれたエアラインが、3つあった。
KLMオランダ航空と、スイス・エアと、シンガポール・エアで、わざわざ本社にまで連絡し、確認をとってくれたのには感激した。
その結果発見されたのが、このページの鮮やかな青の飛行機。
KLMの消しゴムである。
「取り寄せてみたら、すみません、あんまりかわいくないんですよ」
と担当の方は恐縮していらしたけれど、とんでもない。
シンプルで、すがすがしい魅力あふれる作品であった。
単純計算をして、航空会社の5人に1人が、消しゴム・コレクションに好意を示してくれたことになり、ありがたいかぎりである。
世の中、消しゴム好きなど、まだまだ理解されない。
ほとんどの人の反応が、
「まあ、この人、いい歳して‥‥」
というものなのだから。
しかし、しかしだ、この秘められた世界の魔力に一度触れてしまったら、もう後戻りはできない。
あなたも覚悟して、さあ次のページへ!
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