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ソビエト連邦


今から20年近く前、まだ東西の冷戦下、ソビエト連邦なる国が存在していたころの話である。

子供の親善使節団の団長として、モスクワを訪れた私は、自由行動の日にさっそく、消しゴムを買おうと、モスクワで一番大きなデパートをめざした。

だだっぴろい、しかし物資の不足が深刻化し、ショーケースはがらんとあいたデパートのなかを、私は文具売り場を探してさまよう。

ようやく売り場にたどりついたと思ったら、その前には何十人もの客の列ができていた。
そういえば、町なかの酒屋や肉屋など、あちこちの店の前にも、えんえんと人がならんでいたのを思いだす。

どうしよう、と一瞬つぶやいたが、答えは決まっていた。
ここまできて、手ぶらでなど帰れるものか。

1時間、私はじっと順番を待った。
いっこうに列は進まない。
売り場の店員は、いかにもやる気がなさそうだ。
この国では彼らも国家公務員で、一生懸命やってもやらなくても給料はかわらないため、サービスもなければ、仕事の効率があがるはずもないのである。
腹立たしさを覚えながらも、ひたすら待つ。

さらに1時間ならんだところで、ようやく私の番がきた。

「レジンカ」(消しゴム)

と私は勢いこむ。
この日のために調べておいた、ロシア語である。

しかし店のおばさんは、すぐに品物を渡してはくれない。
なにやら数字を書きつけた紙を私に渡し、通路の先にある料金所に行け、と指さす。
まずはお金を払ってこなければならないらしい。

仕方なく料金所へ行くと、そこにも長蛇の列。
仕方がない。
私はまた2時間ならんで、料金を支払い、紙に領収の赤い判こを押してもらう。

やれやれ、そしてまた、売り場の長い列に戻り、さらに2時間ならんで、私はようやく念願の消しゴムを手に入れたのであった。

途中で何度かくじけそうになったけれど、あきらめなくてよかった。
6時間をかけて、ただの四角い、粗悪な消しゴムが、忘れられない思い出とともに、残った。