** Eriko Kusuta's World ** 楠田枝里子公式ホームページ **
■ はじめに

■ Airplane
■ Animal
■ Ball Game
■ Barbell
■ Bomb
■ Book
■ Box Lunch
■ Bread, Roll
■ Button
■ Cake
■ Camera
■ Candy
■ Canned Beverage
■ Car
■ Caramel
■ Card
■ Cassette Tape
■ Cellulose Tape
■ Chewing Gum
■ Chinese Noodles
■ Chocolate
■ Cigarette
■ Clapperboard
■ Clock
■ Clothespin
■ Coffee and Cream
■ Comb
■ Cookie
■ Crayon
■ Curry and Rice
■ Cutlet
■ Detergent
■ Dinosaur
■ Doll House
■ Donburi
■ Fire Extinguisher
■ Fish
■ Flower
■ Fruit
■ Hamburger
■ House
■ Human Body
■ Ice Cream
■ Ice Lolly
■ Kamaboko
■ Kitchenware
■ Light Bulb
■ Medical Supplies
■ Milk
■ Money
■ Monster
■ Mosquito Coil
■ Musical Note
■ National Flag
■ Noodles
■ Notebook
■ Nuts
■ Oden
■ Peko-chan
■ Pencil
■ Picnic Lunch
■ Prism
■ Raisins and Butter
■ Record
■ Ruler
■ Sauce
■ Shirt
■ Shoes
■ Soft Ice Cream
■ Space Shuttle
■ Stamp
■ Sushi
■ Taiyaki
■ Tap
■ Tea Bag
■ Telephone
■ Testimonial
■ Tissues
■ Tofu
■ Tool
■ Toy
■ Unaju
■ Vacuum Cleaner
■ Vegetables
■ Video Game
■ Wrap

世界の消しゴム
■ America(USA)
■ Australia
■ Chile
■ China
■ Colombia
■ Denmark
■ England(U.K.)
■ France
■ Germany
■ Indonesia
■ Islael
■ Italy
■ Mexico
■ New Zealand
■ Peru
■ Poland
■ Soviet Union
■ Spain
■ Taiwan



Copyrights



机の上に、ずらり並んだ百科事典。
宇宙から自動車までを解説する大図鑑のシリーズ。
辞書はどれも新版をそろえているし、聖書だってある。
うーん、なかなか立派な書斎だ、と思われるだろうか。


実は、これ全部、消しゴムである。
明解古語事典は、幾度もページを操った手の跡が残っているようだ。
「Beautirul Flowers」の2巻本は、繊細な洋書のおもむき。
ロシア語の辞書の重厚さといったら、どうだ。
黒の革表紙に彫り込まれた金文字の、なんとリアルな仕上がりだろう。

しかし勿論そこここに、消しゴムならではのユーモアが隠されている。
新独和事典の出版社は、HANSEI(反省)DOだし、新和英中事典はGOKAKU(合格)SHA、新英英事典はJODAN(冗談)SHA、なんてね。

研学社の国民百科事典には、苦労した。
1巻ずつ各文房具店に飛び散っているものだから、足を棒にして探し回るしかなかった。

ようやく5巻までそろえたが、これで完成ではない。
よく目をこらして、見てほしい。
1巻は「あ」から始まり、5巻は「ぬ」で終わっている。
この分では、あと5巻あるにちがいない。
しかし、これ以上はどうしても見つからなかった。
メーカーが半分で製造中止したなんて、考えたくないのだけれど‥‥。

背表紙に鉛筆立てをあしらい玩具っぽさを出した、見津館の学習百科図鑑も、1冊足りない。
1)植物、3)魚貝、4)鳥類、5)動物ときているから、2)は昆虫の図鑑だろうか。
なかなか手に入らない。

それにしても、消しゴムで本を作るとは、皮肉な思いつきだ。

書物は、知識や表現を他者に伝えたい、残しておきたいという人間の思いが選んだ、ひとつの形である。

一方消しゴムは、(たとえ間違いであったとしても)いったん形づくられた世界を消滅させるために、生まれてきたものだ。
しかも相手だけでなく、自らも身を捩りながら、自他ともに消失していくという、悲しい宿命を負っている。
その潔さがまた、消しゴムの魅力でもある。

このどうにも相いれるはずのない二者が、消しゴムの本の内側で、激しく葛藤しているのだ。
新たな宇宙を描き出そうか、いっそさっぱり掻き消えようか‥‥。

昨日も今日も、文房具屋を訪ね歩きながら、ふと思う。

もしかすると、探し続けいているあの事典も図鑑も、完全にそろわないほうがいいのかもしれない。
それは、彼らの在ることの苦しさを、そのまま語っているのだから。