** Eriko Kusuta's World ** 楠田枝里子公式ホームページ **
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数年前、仕事で上海へ旅する機会を得た。
自由時間にさっそく町に出る。
いたるところで建設工事が進み、活気に溢れている。
上海は近代都市としてあっという間に変貌を遂げていた。
ショッピングビルを3つほど渡り歩いて、消しゴムを探した。
ある、ある。
カラフルでかわいい消しゴムが、売り場に山となっている。
ほくほく顔で、私はひととおり買い占めた。
が、心のどこかに、ぬぐえない疑問が残ったのである。
なんだか、変だ。
どこか、違うぞ―――。
下に、それらの消しゴムを掲げた。
大きく3つのグループに分けられる。
グループAには、TAIWANと確かに記されている。
グループBは、カタカナや、ローマ字による日本語表記があるので、日本のメーカーが輸出したのにちがいない。
問題はグループCである。
ドラゴンにクマ、カエルなどの動物たちが、ひょうきんな形で描かれている。
野菜、アイスクリーム、いちご、メリーゴーラウンドだってある。
同じシリーズの製品のようで、そのうちのごく一部に小さく「新代文具」の表記を発見した。
やはり、これらも台湾で作られているものなのだろうか。
この色使い、形、英語表記は、中国本土のものではない気がする。
私のイメージのなかにある中国製の消しゴムは、手に入らないのか……。
と、そんな私のもとに、足利工業大学の牛山泉先生から、一通のふくらんだ封筒が届いた。
風力発電の研究で世界を飛び回っている先生は、各地で珍しい消しゴムを見つけると、私に送ってくださるのだ。
包みを解いて、私は思わず歓声を上げ、跳び上がってしまった。
これだ!
私が探し求めていたのは、この消しゴムだったのだ。
いかにも素朴で実直なつくり。
オーソドックスな四角い消しゴムに、「上海」の文字がはっきり読み取れる。
消しゴムは、中国語で「橡皮」(シャンピー)というのね。
上海出身の友人の林南ちゃんに見てもらったら、
「わあ、懐かしい。
この消しゴム、図工の時間にいつも使ってたわ」
と感慨深げであった。
南ちゃんによれば、中国では、輸入品の文房具になんと80%もの税金が課せられるという(自動車は120%ですって!)。
「だから台湾や日本製でも、そうと書かずに持ちこんでるのが多いんじゃないかしら……」
なるほど。
消しゴムには、その国の裏事情までが映しだされる。
上海から、さらに後日、球にじゃれて遊ぶネコの消しゴムが届いた。
「好猫」(良いネコの意味)の文字が躍る。
有名な筆の会社「」の第三工場で作られたと明記されている。
しかも「長城」ブランドである。
いや、それより何より、球の色の赤、黒ネコと白ネコの表情が、まさに中国製そのものではないか。
私の顔はほころびっぱなしである。
満足、満足。
あらためて、厚い友情に限りない感謝を。
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