** Eriko Kusuta's World ** 楠田枝里子公式ホームページ **
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木枯らしに、思わず襟元をかきあわせる。
ほかほかと、鍋からは湯気がたっている。
こんな季節は、これにかぎる。
「今夜はずいぶん冷えるわねえ。おじさん、大根とガンモ、追加してちょうだい」
なあんて声がかかりそうだが、おっと、これは食べられない。
ゴボウ巻きもタコも、タマゴも全部、消しゴムなのだから。
練りあげたカラシ付きなのが、なんとも心憎い。
私の消しゴム好きを耳にして、各地のマニアが珍しい消しゴムを送ってくださることがある。
おでんの消しゴムも、そのうちのひとつだ。
まだ小学校にもあがっていない幼い子供たちから、学生、若いお母さん、オジサン、オバサン世代、オジイチャンまで、消しゴムのファン層は広く厚い。
目の肥えた収集家がよりすぐり、これぞと思う作品を教えてくれるのだから、こんなに嬉しいプレゼントはない(この場を借りて、心からお礼を申し上げたい)。
消しゴムを集めるには、根気とタイミングが必要だ。
狙い目は大量生産され全国的に出回っている製品より、マニアックなメーカーが限定数作って、特定の期間に卸したようなもののほうである。
面白くて、希少価値のある逸品を手に入れるには、とにかくこまめに文具店をチェックするしかないのだが、とてもひとりで全国をカバーすることはできない。
さまざまな地方から届けられた消しゴムには、その土地ならではの発送や嗜好がうかがえて、興味深い。
実は、このおでん消しゴム、2人の方から送っていただいたのだが、どちらも関西から西の住所が記されていた。
おでんの消しゴムが大受けするなんて、さすがに食にこだわりのある一帯なのだろう。
そもそもこの消しゴム自体、食いだおれの大阪人あたりから生まれたアイデアなのかもしれない。
とすれば、ひょっとすると、お好み焼きやたこ焼きや、うどんすきの消しゴムも、関西方面には存在するかもしれない。
北海道には、毛ガニ。
博多には、めんたいこ。
富山には、ホタルイカ。
故郷の伊勢には、アワビや伊勢エビ……なんかがあっても、悪くないなあ。
あれ?
いつのまにか、くいしんぼう万歳、みたいになってしまったぞ。
あー、おなかがすいた。
おでんにでもしようか。
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