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ああ、このミルク色の肌、格子の模様、手でつまみあげたときの感触、ぷーんと鼻に漂ってくる甘い匂いも‥‥何もかも‥‥ため息が出るほど、キャラメルそのものだ。

なんて懐かしいんだろう。
香りが呼び起こす記憶のネットワークには、理屈など不要だ。
幼い頃、キャラメル一粒が口に広がっていったときの、奇妙に満ち足りた幸福感が、豊かに蘇ってくる。
こんなちっぽけな消しゴムひとつが、大人になった今の私をも、子供のときのようにほほえませる。

ところが、こんな香り付きの消しゴムが、10年あまり前から、なかなか作れなくなった。

「ほんとうに残念なんですけどねぇ、消費者団体から突き上げをくらいましてね」

と、熱心な消しゴム業者が肩を落とし、嘆いていたのを覚えている。
子供が間違えて食べてしまうといけないから、匂い付きの消しゴムなど作ってはならない、と言われたという。

おかしな話だ。

何でもかんでも見境なしに口に入れてしまう幼い子供にとっては、コンパスも鉛筆も消しゴムも、いやいやヘアピン1本だって、変わらず危険なもの。
近くに置かぬよう注意するのは、まわりの大人の義務である。

少し分別のつく年齢になったら、「消しゴムと書かれているから、どんなに匂い、形がおいしそうでも食べてはいけないよ」と教えておけばすむ話だ。
万が一、それでも口に放りこむバカな子がいたとしても、まずい消しゴムなど、すぐに吐き出すはずである。

怪我しちゃいけないことからと、ナイフを使わせない親の愚と同様、非現実の檻のなかに囲っていては、子供の成長は歪められるばかりだ。

世の中は、そう単純ではない。
色鮮やかなキノコのなかにも、毒がある。
外見は立派そうに着飾っていても、裏では悪に手を染めている人物もおり、心地よく響く言葉に嘘もある。
悲しいながら、それが現実である。
子供たちに真に必要なのは、世界を正しく見極める目なのだ。

たとえ甘い香りで誘われても、食べちゃいけないものもあるのだと、このキャラメルの消しゴムでこそ、親は教えていくべきではないか。