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「消しゴム図鑑」を作るにあたって、最初の難関は、ざっと二万点ものコレクションを整理、分類し、夥しい項目のなかから、今回取り上げる消しゴムをピックアップすることだった。
ページには限りがあるから、全てを紹介できるわけはない。
泣く泣くあきらめねばならなかった秀作が多々ある。
私自身、身を切られる思いで、ついには熱を出してしまうほどだった。
項目の立てかたにも苦労した。
たとえば、はじめのうちは、「イヌ」「ネコ」というふうに独立したページを作るつもりでいたものが、それではとても納まりきれず、それぞれの数を最小限にしぼって、まとめて「動物」とせざるをえなかった。
このページも「ひまわり」「チューリップ」と分けられず、「花」となった。
「花かご」も「じょうろ」も「バケツとスコップ」も、花関連としてこの中に組みこまねばならなかった。
ところが、やむなくこの作業を続けているうち、ちょっと奇妙なことに気付いたのである。
まず、写真右のバケツを見ていただきたい。
黄、青、赤と、明るい色彩のポリバケツに、金色の持ち手が付いている。
中には色をそろえたスコップが入っているのだが、これは取り外し可能で、かつバケツに差し込むさいにはどんな角度でも安定するよう、内側の構造にも工夫がこらしてある。
シンプルだが、知恵をしぼってある。
なかなかの作品なのである。
だが、それに比べて、花自体の作りはどうだろう。
どれも、いわゆる金太郎飴式の、ゴムのかたまりをカットしただけの、最も単純な製法となっている。
実際に目にする花々の多様性を考えると、あまりにもワンパターンではないか‥‥。
と、ここまできて、私は、思わぬ消しゴム世界の奥深さに、膝を打った。
たかだか人間の作り出したものなら、どこまででも、消しゴムは本物に迫ることができる。
バケツだって、ラーメンだって、セロハンテープだって‥‥。
しかし、神の創造物である花――自然には到底太刀打ちできないことを、消しゴムは知っている。
そこはいわば聖域なのである。なぜなら、消しゴムを構成している物質、元素のひとつひとつが、神の創造物に他ならないからだ。
そして、この150億年の宇宙の歴史のなかでは、まばたきするほんの一瞬さえも、自分たちは存在できないことを、認識しているからだ。
という気がする。
消しゴムは、十分身の程をわきまえている。
そうして、ほんの申し訳程度に自然を模倣してみせては、「こんなものなんです、私たち」と、照れ笑いをしているのではないだろうか。
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