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信じられない乱暴な話だが、私の珍しい消しゴムに驚いて、
「へえ、これホントに消しゴム?」
と手に取るや、無造作に、そこらへんの紙にゴシゴシとこすりつける人がいる。
「何するの!」
私の制止も悲鳴も間に合わない。
哀れ、大事なコレクションは、あっというまに無残なかっこうに削られ、私は悲しい涙を流すことになる。
新しい製品なら、また買ってもこられようが、少し時間を置いたものは、到底手に入らない。
客人に貴重品を見せる時には、十二分の注意が必要である。

ところが、そんな私でも、どうしても誘惑に打ち勝てないケースがある。

下の、銀の器に入ったアイスクリームを見てほしい。
まさにパーラーのアイスクリーム。
バニラ、チョコ、ストロベリーと3種類そろっている。
器は私が買ったもので、アイスの部分だけが、実物大の消しゴムなのだ。
しかし‥‥こんな形の消しゴムを作るなんて、どう考えても変な気がする。
私がこんなふうに器をアレンジしなかったら ―― デコボコの塊だけがそのへんに転がっていたら、誰もアイスだなんて気付かないにちがいない。
それじゃ製品としては失敗作だろう。




長い間、恐れていたことを、ここに打ち明けよう。
私は、これは食堂入り口のショーウィンドーに飾られる、食品模型ではないかと、ずっと疑問を抱いていたのである。
確かめるにも、たった1点ずつしかない消しゴムを使ってしまうわけにはいかない。
不安と苛立ちは、増すばかり。

ついにある日、わたしは勇気をふりしぼって、チョコアイスの塊を手に取った。
そして、一番めだたない裏側の端の部分を運び、そっと紙の上に滑らせてみたのだ。

あの時の緊張感、ばくばくと音をたてる心臓の高鳴り、そしてその後にきた、体ごと宙に跳びあがってしまうほどの感嘆の瞬間を、どう伝えようか。
紙に書いたクエスチョンマーク「?」は、楽々と、きれいに消されていったのである。

そう、このアイスの消しゴムは、文句なしの大傑作であった。