年代物の消しゴムといったら、これだ。
二十数年前、私はまだ学生だった。
四谷の文房具屋で、このタバコの消しゴムを見つけ、悪戯心で買い求めた。
ほぼ実物大で、細部まで、なかなかよくできている。
教室で、箱からおもむろに1本を取り出し、机の上でトントンと弾ませてみる。
「授業中にタバコ?!」
教師も他の学生も、目を丸くしている。私はなにくわぬ顔をして、手にしていたタバコをノートの上にすべらせ、書いた文字を消し始めるというわけだ。
その瞬間の皆の驚きにゆがんだ顔といったら!
私は笑いをかみころすのに苦労したものだ。
私の悪戯の回数分、このタバコの消しゴムはすりへっている。
角の黒ずみを見るたび、いっぱい食わされたと地団太踏むクラスメートの顔が浮かぶ。
まだ何も持たず、先も見えず、それでも期待とその裏返しの不安だけが胸にあふれていた若い時代の、ささやかな証拠である。
ちなみに、私は実生活では全く1本もタバコを吸わないので、念のため。
タバコは、消しゴムだけにしておくのが、健康によろしい。
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