どこから見ても、手に取っても、セロハンテープとしか思えない ―― 誰もが感嘆の声をあげるのが、この消しゴムである。
飴色に透き通った本体。
わきには、幾重にも折り重なったテープの筋。
少しねっとり感のある手触りも、大きさや、持ち上げたときの軽い重みまで、何から何まで、そっくりセロハンテープなのだ。
この本の撮影中でさえ、スタッフが間違って、この消しゴムで破けた予定表を貼りあわせようとしたほどである。
これぞ擬態の極み。
ついに消しゴムは、ここまできたのだ。
シャクトリムシは、木の枝を装って身を守るし、ある蘭の一種は、メスの蜂とそっくりの形をしていて、交尾しようとするオス蜂をおびきよせる。
いずれも生存のための巧妙な手段である。
みごとにセロハンテープを模した消しゴムが、デスクの上にあっても、人はきっと、それで文字を消すことを忘れてしまうだろう。
死から逃れ、いつもまでもその姿のまま在りつづける、セロハンテープ消しゴムは、消しゴム進化の最終ステージに立った。
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