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1991年の秋、五木寛之氏や堤清二氏らとともに、全日本文具協会から、ベスト・オフィス・ユーザー賞をいただいた。

うまく文房具や事務機器類を使いこなしていいることが、評価される賞である。
おそらく私に関しては、消しゴムコレクションが認められたのだろう。

そこで私は、受賞の挨拶でつい、
「できれば表彰状も、紙ではなく、消しゴムでいただきたい」
と言ってしまったのだが、式を終えて壇を下りるとさっそく、待ちかまえていたかのように、ひとりの男性が歩み寄ってきた。

年齢はすでに60を過ぎているように見えるが、しかし、その人の目は、若者と変わらぬ生き生きとした好奇心に満ちていた。
「うちが、やりましょう」
ヒノデワシ、という消しゴムのメーカーの社長だった。

ヒノデワシの名は、以前から、私もよく知っている。
目薬や、割り箸、ミルクキャラメルなど、ユニークな発想で、斬新な消しゴムを次々世に送り出している会社として、注目していた。

そのヒノデワシが、私の乱暴な願いを、ふたつ返事で引き受けてくれたのだった。

首を長くして待つ私のもとに、完成品が届けられたのは、年の終わりに近い頃であった。
担当者が格別に力を入れ、あれこれ手法を駆使して、試みてくれていたのだと聞いた。






大きさは本物と同じ、縦30センチ、横42センチ。
ただし紙ではないので、厚みが1センチあり、重さはなんと2キログラムにもなる。

通常の消しゴム、ゆうに100個分の分量があるのだから、それを平らに延ばすだけでも大変だ。
素材の重さで、少しでもゆがみが生じれば、ぱりんと真っ二つに割れてしまうのである。

表面には、光があたると固くなって出っぱる性質のある感光性樹脂を用い、レリーフ製法で凹凸が付けてあって、文字や周囲の文様が浮き上がるように作られていた。
多色刷り版画の要領で、使われる色の数だけ型を作り、柄を重ねていくのだ。

勢いよく筆を走らせた文章のまわりを飾る模様は、あまりに繊細で、型をとるのも、色をのせるのも、工程には細心の注意が払われたそうだ。

素材の塩化ビニル樹脂を型に流しこむときにも、どうしても、はみだしてしまう部分が出てくる。
その修正は全て、根気強い手作業となった。
虫メガネで眺めわたすと、それはもう気の遠くなるほどの精巧さである。

印鑑の朱の微妙なのりぐあい、あしらわれた桐の葉の葉脈や、鳳凰の羽根のひとすじひとすじまで精緻を極め、みごととしか言いようがない。
私は息をつめて、その秀美なラインをいつまでも追い続けたのだった。

その後、引っ越しのどさくさで、肝心の本物の表彰状はどこかへいってしまったが、消しゴムの表彰状は姿を消すこともなく、私のデスクの横に飾られ、今も訪れる人の目を奪っている。