おやすみ、マフィン
楠田枝里子
「ネコは夜行性だからね、夜中かってに動き回って大変だよ」
と、以前、知人から脅かされたことがあります。
そのときには、
「あら、私も夜行性で、朝までずっと原稿を書いてたりするから、ちょうどいいわ」
なんて答えたものですが、いやいや、マフィンは全然違いました。
とても規則正しい、健康的な生活です。
朝はきっちり8時に起き、時々うたた寝はしますが、おおむね一日元気に遊び回って、夜12時近くになると、もう、あくびをしたり、眠そうに目をしょぼしょぼし始めます。
いつも私の回りをうろうろしているくせに、ほぼ12時には、ベッドルームへ続く廊下の真ん中にぽつりんと座って、私を待ちます。
それでもなお、私が机に向かっていると、
「仕方ないなー」
と言いたげに戻ってきて、今度はすぐ真近にごろりんと横になり、伸びをしたり、引っくり返ったりして、私の注意を促します。
しかし、仕事が終わらないことには、私も寝るわけにいきません。
「ちょっと、待っててね」
と声をかけながら作業を続けていると、午前2時くらいになって、マフィンはついに最終手段に出るのです。
ひらりと椅子の上に飛び乗って、私の背中に抱きつきます。
両前足を私の首に回して、
「ねえ、ねえ、もう寝ようよー」
と訴えるのです。
子供がお母さんの背中におんぶしてもらっているのと同じ体勢の、デモンストレーション。
こんな可愛い仕草でねだられたら、私もさすがに根負けしますよね。
「はいはい、わかったわ」
と立ち上がって、マフィンに付いていってしまうのです。
ベッドルームで、私が寝る準備をしていると、マフィンもトイレに行って、おしっこをすませます。
(えらいでしょう!
これで朝まで彼はトイレに行かずにすむのですよ。)
そして、
「じゃあ、マフィン、お休み」
と私がベッドに入って電気を消すと、彼も、百科事典の前のお気に入りの場所で、なかよしのお魚さんと、ベルリンの彩人くんが贈ってくれた爪とぎのネズミさんに、もたれるようにして、眠ります。
マフィンのおかげで、宵っ張りだった私の生活が、随分まともになりました。
でも、こなせる仕事の量が、激減。
これって、良かったのでしょうか?
2003年3月
お魚さんと、いつも一緒。
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お昼寝もね。
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